顧客概要
オーナー社長様(被相続人)/70歳/企業オーナー/配偶者あり・子供2人(長男:専務・後継者、長女:事業に非関与)/総資産:5億2,000万円(非上場株式4億円・金融資産7,000万円・不動産5,000万円)
ご相談の背景・経緯
今回の事例は、70代のオーナー社長と、後継者である40代の専務(長男)がいらっしゃる企業です。社長が自社株式の100%を保有していますが、現場の実務はすでに長男がほぼ取り仕切っており、事業そのものの引継ぎは順調に進んでいました。ご家族としては奥様と、事業に関与していない長女がおり、長男を後継者とすることに家族間の異論はありません。
ご相談のきっかけは、実務を任されている長男が抱いた「父も高齢になり、もし認知症などで判断能力を失ったら、会社の議決権(自社株)はどうなってしまうのか」という切実な不安でした。
事業の運営を任されていても、会社の所有者(株主)は社長です。もし社長が認知症になり判断能力を喪失すると、株主総会で意思決定ができない状態となり、以下の問題が一気に表面化します。
株主総会が開催できない: 役員の選任・解任や、定款変更などの決議が不可能になる。
重要な経営判断の停滞: 多額の借入れ、事業譲渡、会社の解散といった重要事項が決定できない。
金融機関との取引への支障: 融資契約の更新や新規借入がストップする可能性がある。
これが、会社の機能が完全に停止する経営の空白リスクです。社長の判断能力喪失という不測の事態が発生しても、後継者が会社の経営権を滞りなく行使できる体制をどう構築するかが最大の課題でした。
専門家のポイント解説
当事務所では、経営権の空白期間を生じさせないため、そして後継者以外の親族との将来のトラブルを防ぐために、以下の総合的な対策を提案・実行しました。
1. 家族信託(民事信託)による議決権の確保
社長を委託者、後継者である長男を財産を管理する受託者として、社長が保有する自社株を信託財産とする方法です。
配当を受け取る権利(受益権)や議決権の行使をどう指示するかの権限は社長に残しつつ、実際の議決権の行使は受託者である長男が行えるように設計します。これにより、万が一社長が認知症になっても、長男が株主として議決権を行使できるため、経営が停滞しません。
2. 停止条件付贈与契約の活用
「社長が医師により認知症と診断されたとき」や「死亡したとき」など、客観的に明確な事実が起こることを条件として、自社株を後継者に贈与する契約をあらかじめ結んでおく手法です。条件が成就した瞬間に株式の所有権が自動的に長男へ移転するため、確実に経営権を引き継ぐことが可能です。
3. 最も重要な遺留分(いりゅうぶん)対策
経営権の承継と同時に必ず整理すべきなのが、後継者以外の相続人(本件では長女)への配慮です。本件では総資産5.2億円のうち、自社株の評価額が4億円を占めています。
もし長女が法律で保障された最低限の取り分である遺留分を主張した場合、長男は多額の代償金を現金で支払わなければなりません。現金が用意できなければ、株式の一部を長女に渡さざるを得なくなり、経営権が分散してしまいます。これを防ぐため、長女にあらかじめ家庭裁判所で遺留分を放棄してもらう手続きや、長男が代償金として支払えるよう生命保険を活用するなどの遺留分対策をセットで行うことが、経営権防衛の絶対条件となります。
お客様の声
【オーナー社長様の声】
「現場の仕事はすべて長男に任せており、事業承継はうまくいっていると安心しきっていました。しかし、『もし私が認知症になったら、自社株が凍結されて会社が回らなくなる』と指摘され、背筋が凍る思いでした。家族信託という仕組みを使って、私の目の黒いうちはコントロール権を残しつつ、いざという時の議決権を長男に託すことができ、本当の安心を手に入れることができました。」
【後継者(長男)様の声】
「実務は回していても、最終的な決定権(株式)が父にある状態で、父の物忘れなどが少しずつ気になり始めて不安な日々を過ごしていました。専門家の方に入っていただき、議決権の問題だけでなく、妹への遺留分など『株式評価額が高いからこそ起きる相続トラブル』の対策まで一気に整えてもらえました。これで事業の発展に集中することができます。」